2024年11月
私は、社会保険労務士試験の講義を行っています。もちろん、無償です。
始めたきっかけは、事務所スタッフに業務知識を深めてもらい、質の高い事務手続きを行って欲しいというものです。3年前から始めた講義ですが、一昨年1名の社労士試験合格者が出ました。講義は家庭教師のように、マンツーマンで行います。使用するのは、教科書・問題集ともに各1冊です。教科書の内容の本質を理解すれば、他の参考書や模試の必要などありません。講義は、私にとっても大きなメリットがあり、専門知識を風化させません。よって、顧問先へのコンサル提供時、知識不足を感じることはありません。
1年前からは、定年在職時の同僚・後輩にも講義をしています。社労士業務の実績7年間は伊達ではなく、社労士知識の本質理解に大きく貢献しており、講義の内容に深みが出て、受講者にとって楽しめる講義となっているものと期待しています。毎年、社労士試験問題を検証し続けていますが、4年前ぐらいから試験内容が大きく変わり、難易度の高い試験になりました。昔は暗記が勝負で、応用や法・判例の本質理解なんてほど遠いものでしたが、最近の試験は知識(暗記)を問いません。社労士試験というよりも、文章理解・教養試験といった色彩が濃いように思います。受験生の資質によるマッチングが問題であり、性格や思考の適不適が顕著に表れる試験・問題です。教え方も主旨・目的に重点を置かないといつまで経っても受からない試験になりました。
今では超難関資格である司法書士試験が、過去には認定試験で40%程度の合格率であった時代も考えると、資格試験の高難度化はよくあることで、社労士試験合格と同時に紛争代理(特定社労士限定)ができる時代が来ることを願います。法律家を目指す試験になることを期待し、「憲法・民法・会社法」ぐらいは含む試験となり、合格率3%程度の試験にすべきと心から願うものです。過去には3%を切った年もありましたが、難易度は通年のものでした。社労士試験も、救済(ゲタ)という国家試験としての恥を無くせば、輝かしい試験になると思います。行政書士試験のように、透明感のある試験になることを願うばかりです。
判例:年休取得日を欠勤とみなし、皆勤手当不支給は違法か。
【事件概要】
皆勤手当てとして月10,000円支払っているタクシー会社で、1日欠勤したら月5,000円、2日欠勤したら皆勤手当不支給となる労働協約を締結していました。年休を2日取得した従業員が「欠勤ではないので、皆勤手当が出ないのはおかしい」と提訴した事案での最高裁判決です。
【労基法136条】
使用者は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取り扱いをしないようにしなければならない。
【通達:昭63.1.1基発1号】
年休取得による不利益処理は、①年休取得抑制効果を持ち、年休取得の推進を妨げるものであり、②皆勤手当てや賞与の減額の程度によっては、公序良俗に反し、無効とも考えられる、との見地に立ち不利益排除の指導を行ってきたところ、皆勤手当や賞与額の算定にあたり、年休取得日を欠勤と準じて処理しないことを指導してきた・・・。
【最高裁判決】
労基法136条の規定主旨からすれば、使用者が従業員の出勤率低下防止の観点から年休取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置をとることは、経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきということはいうまでもないが、労基法136条自体は、あくまでも使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年休取得を理由とする不利益扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。判断基準にされた個別事情は、以下のとおりです。
- 労働者の出勤状態が、会社の売上に直結することから皆勤手当てによる出勤を奨励していたこと
- 年休を含む出勤状態での皆勤手当てが労働協約で設定されていたこと
- 皆勤手当の賃金全額に占める率が1.85%程度のものであったこと
最高裁判決の要旨は、
- 年休取得に対する使用者の不利益回避は、努力義務である。
- 年休取得に対する不利益付与は、労基法の主旨には反する。
- 労使間の協約等があれば、企業合理性の観点から完全否定するまでに至らない。
ということです。最高裁判決では不利益の低さにも注目していますが、最高裁判決以降に不利益の程度に議論が出る地裁判決が出ました。
【練馬交通事件:東京地判平16.12.27】
月齢賃金支給総額の最大7.25%程度の減額でも労基法136条に違反しない。
上記2判決をみるに、年休取得の基本条件である「出勤率」においても「年休は出勤日とみなす」ことからすると、年休取得に対する不利益付与回避が努力義務と解することには疑問を感じざるを得ません。
世相
最近のニュースでは、大卒の入社3年以内の離職率が3割を超えている報道があった。一方で、就職活動は売り手市場で、10月内定率は91.6%だそうである。若者の腰の軽さに驚く声や賛同、批判する声が途絶えることはないが、社労士という立場で統計・報道・指標をみると以下の疑問が湧いてくる。
- 労基法を遵守する企業が何割あるのか。
- 学生は就職に際し、就きたい仕事に就けたのか。入社時に、就きたい仕事があるのか。
- 日本のハラスメント認識・対応に本気度はあるのか。
- 離職することが悪か。
就きたい職業をもっていること自体が珍しいことであり、就きたい職業に就けないことも珍しくない。
また、人生100年時代に向かい、人生で転職がないことは考えられない。人に優しい会社であっても、嫌な上司は存在し得る。大事なことは、無駄な我慢をする必要はないが、大事な我慢をしているかということではないだろうか。転職を繰り返し、就きたい職業と我慢のしどころを見極める目を鍛えて欲しい。