2024年10月

9月2日から、新たなパート社員が加わった。前職もパートであったが、総務スタッフの一員として勤務していたこともあり、雇用保険・社会保険の手続きに違和感はないようだ。

1か月は入社手続きに専念してもらい、社労士事務所の立ち位置を肌で感じてもらいたいと思っている。とにかく真面目であり、業務には真摯に向き合っている。当たりくじを引いたと喜んでいる。無理をさせず、急がないで育成していきたいと思っている。

判例:事業主が労災認定に異議を挟めるか。

令和6年7月4日最高裁判決

労災認定により、メリット制の適用により保険料の引き上げを受ける事業主が、労災認定の違法性を主張して保険料引き上げの取り消しを求めることができるか。つまり、労災認定の直接当事者でない事業主が、労災認定そのものを取り消す原告適格を有するか、という裁判です。

関連する「通達・判決」について、見ておきます。

【厚労省通達】

労災認定により保険料増加の影響を受ける事業主は、労災認定の非該当を主張することはでき、客観的に労災非該当と判断されれば、保険料の引き上げは取り消されるが、労災保険給付の支給は変わらない。つまり、保険給付と保険料の判断は別に行うというものです。

【地裁判断】

労災認定は被災者の救済が主目的であるため、事業主の法的利益を図るものではない。

労災認定による保険料増加という副次的影響は、裁判の原告利益の適格性を欠く。

【高裁判断】

保険料増加は、労災認定を前提として発生する不利益であることから、不利益を負う事業主は、保険料増加の原因となる労災認定についても言及する立場にあり、労災認定取り消し訴訟の原告適格を有する。

【最高裁判決】

労災認定は、労災関連の事実関係を早急に確定し、被災労働者の経済的救済を図ることを目的とするものであり、労働保険料の早期確定を目的とするものではない。

メリット制は、労災事業に関する財政の均衡を図りながら、企業努力に報いるため公平な保険料分担を求めるものであるが、客観的に支給要件を満たさない労災給付を保険料算定の基礎とすることは妥当ではなく、また、客観的に支給要件を満たす労災給付のみを保険料算定の基礎としたからといって、財政基盤に問題が生じるわけでもない。

労働保険料の額は、申告又は認定処分の時に決定できれば足り、労災支給処分によって法律関係を確定しておく必要はない。よって、事業主は、労災認定の取消訴訟の原告適格を有しない。つまり、保険料増加の原因となった労災認定の取り消しではなく、支給要件を満たさない労災認定による保険料の増加判断に異議を唱えればよい、ということです。

世相

昔と違って、デジタル化が進んだおかげで、業務効率が格段に向上した半面、退職時に社員の情報消去・持出・漏洩といった被害を受ける事例が増えています。各社員のパソコンは情報の隠匿性が高いため、在職時に常時監視することは難しく、退職後の被害の大きさを把握することすら困難です。

定年退職は別として、任意退職は「理由があって退職する」ものであり、会社との関係が常に友好的であるとも言えず、友好的であったとしても情報を漏洩しない、持ち出さないとは言い切れません。「消去情報・持出情報・漏洩情報」が何なのかが判明せず、損害額すら確定しないので、民事訴訟として扱うことすら困難な事例であり、対策としては、以下の姿勢を示すことにより、心理的な抑止を行うことができるに留まると言っても過言ではありません。

1 退職前に守秘義務・情報消去禁止・持出禁止等を面談で言明する。

2 誓約書を取り、順法精神に訴える。

3 退職がわかった時点で、社員のパソコンの情報を保存する。

4 転職先に面談を申し入れ、退職前在籍時の情報利用禁止を要請し、損害発生時の提訴まで通告する。

最も有効な方法は、社員のパソコンの保存情報を定期的にコピー保存しておくことです。

業務の遂行状況や業務量も推測することができます。また、退職時の保存情報と比較・照会して消去・持出等の非違行為の事実確認を行うことも可能です。デジタル時代は、社員の動向が確認できないという不信感満載の時代になったということです。